『これってビスポーク?〜既製靴でもカスタムで楽しめるテクニック!』

これってビスポーク?
既製靴でもカスタムで
楽しめるテクニック!

昨年インスタグラムにも投稿しておりました『ガジアーノ&ガーリング(以下G&G)』のオールソール交換のお話です。

お願いしたのはご近所の靴磨き&靴修理専門店『ボストン&リオールズ』
上の画像左のブラックのレイジーマン(偽ヒモのサイドエラスティック)『チェルシーⅡ』です。
この靴は東京の靴修理専門店『ユニオンワークス』のオリジナルモデル。
約6年前に購入して今回初めてのオールソール交換です。

そこでソールの仕上りのサンプルにしてもらうのが同じくG&Gのミッチェル(上の画像右の茶のイミテーションフルブローグ)。初期モノです!
購入時期は14〜5年前、オールソール交換履歴はなし(木型はどちらもTG73)。

2足を比べてみるとビスポークシューズの特徴でもあるヒールとウエストの間の段差(※赤丸箇所)や

ウエストの絞り具合(※赤丸箇所)がまるで違います。

そもそも私がG&Gが好きな理由はグッドイヤー製法の既製靴にもかかわらず、限りなくビスポークシューズに近いフォルムをしているところでした。
初期モノのG&Gの靴を初めて見た時、『これってビスポークのサンプルシューズ?』と見間違うくらい綺麗だと思ったことを記憶してます。
上の画像の2足以外にあと2足G&Gの靴を持っていますが、やはり初期モノが1番美しいです!
なので今回のオールソール交換にあたり、なんとかこの初期モノに近づけてもらえないかとお願いしました。

余談ではありますが、現英国王チャールズ3世が戴冠式でG&Gの靴を履かれていたという記事を見ました。スーツを着られる時もG&Gの黒と茶の『セント・ジェームズ』という伝統的なアデレード・スタイルのブローグシューズを履かれているようです。

で、仕上がってきた靴がコチラです!

ヒールとウエスト部分の段差、しっかりあります!

『これってビスポーク?』と思ってしまうくらい綺麗な※フィドルバック
トップリフト(ヒールの底の部分)釘の並び、踵のゴムの形状もオリジナルに忠実です。
※フィドルバックとは
本底を見た時、土踏まず部分が山のように反り立った仕様を指します。
コルクを盛ったり革を当てて高さを出す方法もあります。
特殊な物では釘を並べて立体感を出す方法もあるのだとか。
フィルドバックは、ビスポーク靴に見られた贅沢な仕様であり、バイオリンを思わせる官能的なラインが特徴です。

『※半カラス』と呼ばれている黒と茶の2色仕上げ。
茶の色はG&Gのインスタグラムでビスポークのソールの色を参考に仕上げてもらいました。
※半カラスとは
地面に接地しないウエスト部分を黒く塗るドレッシーな仕様

ウエスト部分(土踏まず辺り)の絞り具合も素晴らしいです!

今回、通常は初回のオールソール交換ではほとんど行わない※ハチマキと呼ばれる踵のパーツの取り付け直しと※ウェルトの交換(リウェルト)を行っております。
ハチマキ:ウェルトの延長線上にあるアッパー踵周りのすぐ下に取り付けられているパーツのこと。
ウェルト(welt ):靴の周りを縁取るようにアッパー(甲皮)とアウトソール(本底)に縫い付ける、細い帯状の革のこと。

◉ハチマキの取り付け直し
ビスポークシューズのようにヒールカップとヒールの間の隙間がほどんど無く、ピタッとくっ付いて見えるように仕上げて欲しいというのが私のリクエストでした。
その為には、この『ハチマキ』というパーツの付き方が重要で、これがしっかりアッパー側の踵にピッタリくっついてなければヒールカップとヒールの間に隙間が出来てしまうらしいです。
オールソール交換の場合、当然ですがソールのパーツを全部外します。その時どうしてもこのハチマキの付き方が緩んでしまうらしく、その緩んだ状態でヒールを付けると隙間が出来てしまうという原理です。
なので『ヒールカップとヒールの間の隙間がほどんど無く、ピタッとくっ付いて見えるように仕上げて欲しい』という私のリクストを叶える為には、この『ハチマキ』の取り付け直し、もしくは交換が必須となるわけです。
今回は交換までは必要ないとのことでしたので、取り付け直しで対処していただきました。

◉ウェルトの交換
G&Gの靴の特徴として手作業の工程を数多く加えることによってコバの張り出しを抑えています。コバの張り出しを抑えているということは見た目は美しいのですが、アッパー部分に傷が入りやすくなります。正しい例えかどうかわかりませんがバンパーが着いていない車のような状態です。
その為、いつも爪先に傷が入り(特に右足、車のペダルで)クリームをしょっちゅう塗ってました。
今回リウェルトすることで見た目にはほぼわからないくらい爪先部分をほんの少しだけコバを張り出しています。たったこれだけですが爪先に傷が入る数はかなり減ります。

最後にもう一つ、作り手がこだわった箇所です。

上の画像の赤丸箇所、トップリフトのゴムの形状です。
通常の修理では出来合のトップリフトを使うケースが多いようですが今回は一から作っています。
その証拠としてゴムが途中までしか入っていません。
出来合のトップリフトはゴムが途中までではなく接地面の上の層が1枚ゴムです。
またヒール部分も元々付いていたヒールを再利用するケースが多いらしいのですが、今回は再利用することなく一から作られています。
サンプルで渡していた靴がこの仕様になっていたので忠実に再現していただきました。
家に帰って改めてトップリフトを交換していない靴(Yohei Fukuda 、Foster&son、G&G、Edward Green)を見ると全てこの仕様でした。
たぶん履き心地にはほとんど関係のない部分ではあるとは思いますが、手作業で一から作ってもらったことにワクワクしました😆

《今回のリペア内容》
◉オールソール交換
◉フィドルバック
◉メタルトゥプレート(ヴィンテージスティール)交換
◉ソール2色塗り
◉ハチマキ取り付け直し
◉ウェルト交換
◉鏡面磨き

価格・納期については『ボストン&リオールズ』に直接お聞きください。

大満足なリペアでした!
サンプルよりも良く仕上げて頂き本当にありがとうございました!

この記事を書いた人

テーラー・ブレイズ